小平のコミュニティビジネス:藤乃



料理店を営むとともに、老人向け配食サービスを手がける藤乃さんにいってきました!

 

▲鷹の台駅から徒歩3分。
たかの街道踏み切りそばに「藤乃」はある。


新鮮な魚と安全な野菜で季節料理を出してくれる。

魚は、三浦半島長井港の仲買人から直接買い付け。
野菜は、できるだけ地元農家の無農薬野菜を選んで使っている。
店での食事のほか、各種弁当、仕出し料理の配達やお年寄り向けの配食サービスも手がけている。


所在地 小平市小川町1-1059-6
電話 042-345-2227
営業時間 ランチ12:00〜14:00 平日夜18:00〜予約制 日曜、祭日夜18:00〜
HP http://www.kodaira-net.jp/kd2113731/


食に不信の時代だからこそ


すてきなご夫婦。
藤野新市さん、史恵さん


少しずつ微妙に中身が違うお弁当たち。だから名前が貼ってある。

今ほど、食に対して不信感が募っている時代もないのではないでしょうか。

冷凍餃子や賞味期限切れ食品の問題など、どこでどんな材料を使って作られているかまったくわからないままに食べ物を口に入れる怖さを、まざまざと感じた1年ではなかったかと思います。

さて、今回ご紹介するのは、

「食をおざなりにしたくない」

という思いで、
魚は天然もの、
野菜は無農薬、減農薬にこだわり、
顔と顔の見える関係を大切にしている「藤乃」さんです。

藤乃さんは、通常の料理店として営業する一方で、老人向け配食サービスも行っています。

老人配食サービスを始めたのは、ひとりのお年寄りに「おいしいお弁当を持ってきてもらえないかしら」と頼まれたことがきっかけだったそう。

それが口コミで広まり、今では40人ほどのお年寄りが、藤乃さんがお弁当を届けてくれるのを心待ちにしています。

届けているお年寄りは、一人暮らしの人だけではありません。

「家族の方がお仕事で早く帰れないから」
「夫婦で週に一度くらい、おいしいお弁当を食べたいから」

など、依頼の理由はさまざま。

さまざまなのは、依頼の理由だけではありません。

「肉はいや」
「やわらかくないとダメ」
「ゴマは食べられない」
「消化のいいものだけにして」

といったメニューに関する注文、

「夜受け取って翌日食べるので、もちのいいものにして」
「ショートステイにいくので、今週はお休み」

など、40人分のそのつど違うこまごまとした希望は多岐にわたります。
庭から採ったあしたばを「明日のお弁当に入れてね」と頼まれることも。

それらの注文に一つ一つ丁寧に答えて、お店も続けながらお弁当を作っていくのはとても大変そうです。
なぜ、藤乃さんはお年寄り向けの配食サービスを続けているのでしょうか。

「いやあ、頼まれると断れなくってさ」
と照れながらおっしゃるのはご主人の藤野新市さん。

それだけではないでしょう?、とさらに突っ込むと、ご夫婦で3つのポイントについて話をしてくれました。


食をおざなりにしてほしくない

まず「食の大切さ」。

「食べることをないがしろにしちゃあ、いけないんだよね」と新市さん。

「お店に来ることのできる元気な人はいいけれど、来られない人はどうなる?」。
新市さんは続けて言います。

「自分で食事を作れない人も、歯が悪くて食べられない人も、とにかく1日1食でもいいからきちんとした食事をしてほしい。だから、一人ひとりに合わせた食事を作っているんですよ」。

また、少しでも値が高ければ、毎月のお年よりの負担は大きくなってしまいます。
そう思うと、配送料金も取れないし、値段もなかなか上げられないといいます。

どうしても赤字になってしまうので、最近値上げに踏み切りましたが、それでも1回のお弁当は600円。

栄養も満点で、お野菜と愛情がたっぷりのお弁当です。


顔の見える関係にこだわりたい


お店で出している「おさかな定食」

今日は小鯛の煮付けがドンと2尾。
箸を入れると厚い肉がほこっと割れる。
身はよく締まり、味がしみていて美味。

ご飯、味噌汁、サラダ、野菜煮付け、
漬物、フルーツ、コーヒー付き。


「和定食」。食べる側の立場にたって作るうち、どんどん盛り沢山になっていったといいます。

2番目は「顔の見える関係の大切さ」です。

お弁当を届けたときにお年寄りの顔を見えるからこそ

「なんだか調子を悪そうだぞ?」

と思ったときには、翌日は

「●●さんはうどんにしておこうか」なんて気配りをすることもできます。

さまざまな注文にていねいにこたえているのも、
「それが大変なこと」ではなく
「それができるからうれしいのよ」と奥様の史恵さん。

仕出し弁当を何十個と作っても、どんな人がどんな体調で食べるかわかりません。
けれども、配食サービスは、今こんな体調の人が、こんな部屋でこんなキモチで食べるんだということがわかる。

「顔の見える人に作れる幸せを感じるんです」という史恵さんです。

また食材の仕入れにも、藤乃さんは、顔の見える関係を大切にしています。

お魚は、地元の人だけが食べられるおいしいものを求めて、三浦、伊東、小田原の漁港に通い詰め、仲買人さんから直接仕入れるつながりを作ってきました。
今は、毎日電話でやり取りをして、「本日のオススメ」の魚を仕入れています。

また、野菜は、無農薬・減農薬の野菜を近所の農家から直接買い付けています。

食材を提供する人も、食べてくれる人の顔もわかる、そんな理想的なサイクルの中で、藤乃さんは腕をふるっているのです。


感謝が励みになり、感謝を生む


「ごちそうさま」の一言に史恵さんも
にっこり。


お会いできない人もいます。
こちらはお手製のお弁当入れ箱。
なんと、ふたを開けると電気が点灯する仕組み。
顔は見えずとも心を受け渡す通い箱です。


それ!戦闘開始!
夕方の配食サービススタートは5時。
すべてダッシュです。


ガソリン代節約で、最近ご主人はバイクで配送

第3は「うれしいことがある」。

これは、
「今まで歯が悪いから、あまり食べられなかったけれど、たくさん食べられるようになって太っちゃったのよ」
なんていうお年寄りの一言があったとき。

あるいは、入院して注文が途絶えていた人が退院になり
「また配食、お願いね」
と連絡があったとき。

病気を持っている人の病気を治すことはできないけれど、体調管理のお手伝いをしていると思うと、使命感を感じるそう。

また、ベルを鳴らしてもなかなか出ないので、家の中に入ってみると、お年寄りが車椅子ごとひっくり返っていて身動きがとれず
「来てくれるのを待っていた」
といわれたこともあったそう。

いろいろな事情を抱えたお年寄りが、楽しみに待っていると思うとやめられないんですよと藤野さんご夫婦は語ってくれました。

藤乃さんの配食サービスの根底にあるのは
「食をおざなりにしたくない」
という信念ですが、

それを支えているのは
「優しさ」と「行動力」
です。

優しい気持ちだけでは、人に優しさは伝わりません。

藤乃さんの配食の配達に同行したところ、運転以外は、すべてダッシュで走っていました。

1秒も無駄にすることがなく、エンジンを切る数秒前にはシートベルトをはずし、エンジンを切ると同時にドアを開け、ベルを鳴らしてから弁当の用意。
マンションなら階段を駆け上がります。

なぜ?と聞くと

「ごはんが温かいうちに届けたくて」

という答えが返ってきました。

藤乃さんの仕事ぶりを見ていると、
「行動力」が伴ってこそ「優しさ」が初めて活きることを教えられます。

時間になると帰らなければならないケアスタッフ、
同居していても、夕食時に帰れない家族、

そういったさまざまなサービスや愛情などの隙間に生じるぽっかり空いた穴を埋めるために、
藤乃さんは今日も走っています。



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